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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)1825号 判決

原告

永島善夫

被告

髙橋明子

主文

一  被告は、原告に対し、一一三万六〇四四円及びこれに対する平成三年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は、原告に対し、一三一万二〇四四円及びこれに対する平成三年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  交通事故の発生

次の交通事故が発生した。

(1) 日時 平成三年八月一日午後零時一〇分ころ

(2) 場所 神奈川県厚木市愛甲一四三四番地先国道二七一号線路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 関係車両 被告運転の原動機付自転車(伊勢原市た三六〇。以下「被告車一という。)及び訴外永島茂(以下「永島」という。)運転の普通乗用自動車(横浜三三ね四四〇八。フエアレデイZ。以下「原告車」という。)

(4) 態様 永島が、原告車を運転し、前方で右折すべく、本件事故現場付近道路(片側二車線)の右側右折用車線を走行していたところ、被告車が右道路外左側の敷地からいきなり原告車の直前に進入してきたため、被告車が原告車に接触し、被告が転倒した。永島は、その直前に転倒した被告に原告車が接触することを避けるため、やむを得ずこれを右側に寄せたところ、道路右側のガードレールに接触し、損傷を受けた。

(二)  責任原因

車両で道路外から道路に進入するに当たつては、道路を走行中の車両の動静を注視し、十分に安全を確認したうえで進入すべき注意義務があるにもかかわらず、被告は、幹線道路である国道二七一号線の第二通行帯(右折用車線)までいきなり進行してきたものである。被告には右の注意義務を全く怠つた過失がある。したがつて、被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

(三)  損害

原告は、その所有の原告車の本件事故による損傷のため、次のとおり合計一三一万二〇四四円の損害を被つた。

(1) 原告車修理代金 三八万六〇四四円

(2) 代車使用料 六一万六〇〇〇円

原告は、原告車の修理期間中(平成三年八月一日から同月二八日までの二八日間)、訴外槙建設株式会社からセルシオを代車として借り受け、使用料として六一万六〇〇〇円を支払つた。

なお、被告は、右修理期間の全部を代車期間とすること及び代車使用料の額の相当性を争つている。確かに、原告車については、本件事故による損傷箇所の修理の際、右損傷箇所以外の箇所の修理も行わているが、それは後部バンパーの交換にすぎず、特にそのために右損傷箇所のための修理期間が延長されるほどのものではなかつた。また、原告が代車を使用したのは二八日間であるが、そのレンタル料金は二二日分である。さらに、右の六一万六〇〇〇円という使用料は、自動車レンタル業者から原告車と同じフエアレデイーZを二八日間借り受けた場合と全く同じである。すなわち、自動車レンタル業者から一か月連続で自動車を借り受けた場合の料金は「追加一日分の料金」の二二日分であり、フエアレデイーZ(スポーテイXIクラス)の「追加一日分の料金」は二万八〇〇〇円である。したがつて、二万八〇〇〇円に二二を乗じた六一万六〇〇〇円がフエアレデイーZの一か月間のレンタル料金となる。

(3) 原告車の査定落ち価額(事故減価) 二一万円

(4) 弁護士費用 一〇万円

(四)  よつて、原告は、被告に対し、一三一万二〇四四円及びこれに対する本件事故日である平成三年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因Hについて

(1)ないし(3)は、認める。(4)は、永島が、原告車を運転し、前方で右折すべく、本件事故現場付近道路(片側二車線)の右側右折用車線を走行していたこと、被告車が右道路外左側の敷地から原告車の前方走行車線に進入したこと、原告車と被告車が接触し、被告が転倒したこと、原告車が道路右側のガードレールに接触したこと、以上の点は認め、被告車がいきなり原告車の直前に進入したとの点は否認し、その余は不知。

(二)  同(二)について

争う。

(三)  同(三)について

争う。

なお、原告は、原告車の修理期間が二八日間であるとして、その全期間についての代車使用料を主張しているが、右の修理期間中には、原告が本件事故による損傷の修理代金として主張する三八万六〇四四円に係る修理のほか、右損傷箇所以外の箇所についても一四万七三九三円分の修理又は部品の交換が行われている。したがつて、右の全期間が本件事故と相当因果関係があるとするのは相当でない。また、原告は、セルシオを代車として借り受けたとし、一日当たり二万二〇〇〇円の代車費用を主張するが、仮に代車の必要があつたにしても、原告車の代車としては甲第六号証の一に記載されている各種自動車のうちセダンのDクラス程度の自動車が相当であり、その場合のレンタル料は一日当たり一万五〇〇〇円を超えるものではない。

3  抗弁(過失相殺)

原告車から本件事故現場付近の見通しは非常に良く、事故当時、見通しを妨げるような駐車車両もなかつた。被告車は車道の手前で一時停止をしていたが、原告車からその地点への見通しは良かつたのであるから、永島が、前方を良く注視して走行していれば、道路に進入してくる被告車を発見し、減速するなど、接触を回避するだけの措置をとることが可能であつた。しかるに、永島は、前方を注視していなかつたため、被告車の発見が遅れ、あるいは被告車の存在を認識したにもかかわらず、被告車が自車の走行車線上に進入してくることはないであろうと軽信し、減速等の措置を講じなかつたため、本件事故に至つたものである。

したがつて、本件事故は、仮にそれについて被告に何らかの過失があつたとしても、これと永島の前記のような過失とが相俟つて発生したものであり、永島の過失割合は三割を下ることはない。原告の損害額の算定に当たつては永島の右の過失が斟酌されるべきである。

4  抗弁に対する原告の答弁・反論

(一)  本件事故当時、事故現場付近に駐車車両がなかつたことは認め、その余は争う。

(二)  被告車は、道路外から国道二七一号線上の第二通行帯(右折用車線)にいきなり進入してきたものである。このような走行方法をとる車両は、通常あり得ない。原告には、被告車が右のように進入してくることを予見する義務はなかつたというべきである。また、被告車が道路外から第二通行帯に飛び出したとき、原告車は、本件事故現場の少し先にある信号を右折しようとしており、しかもそれが赤色を表示していたことから、相当速度を落として走行していた(おそらく時速二〇キロメートル程度であつた。それは、被告車が原告車の左前横部分〔左フエンダー部〕に接触して転倒し、被告も転倒したにもかかわらず、原告車が、急制動と右側に避けたことで右側に転回し、被告の身体には接触しなかつたことからも明らかである。)。それにもかかわらず、急制動によつても衝突を避けられなかつたのであり、永島において本件事故の発生を回避し得る可能性は全くなかつた。したがつて、永島に過失はないというべきである。

三  証拠関係

記録中の書証目録のとおりである。

理由

一  請求原因(一)(交通事故の発生)は、(1)ないし(3)は当事者間に争いがなく、(4)は、永島が、原告車を運転し、前方で右折すべく、本件事故現場付近道路(片側二車線)の右側右折用車線を走行していたこと、被告車が右道路外左側の敷地から原告車の前方走行車線に進入したこと、原告車と被告車が接触し、被告が転倒したこと、原告車が道路右側のガードレールに接触したこと、以上の点は当事者間に争いがなく、その余は、次の二で判断するとおりである。

二  同(二)(責任原因)について判断する。

1  当事者間に争いがない事実、成立に争いのない甲第七号証、第九号証、乙第一号証、本件事故現場及び原告車を撮影した写真であることに争いのない甲第へ号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。この認定を動かすに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、国道二七一号線の道路上であり、同道路は片側二車線で、事故現場付近においては、路上に記された標識によつて、内側車線(第二通行帯)は、別紙図面「〈2〉信号」地点の交差点における進行する方向に関する通行の区分として、右折専用と指定されていた。

(二)  永島は、原告車を運転し、右〈2〉信号地点の交差点で右折するために、内側車線を走行していた。

(三)  一方、被告は、被告車に乗り、別紙図面〈4〉地点の、原告車の進行方向左側倉庫出入口付近に停車していた。原告は、同図面「〈1〉信号」地点の辺りでこれを認めていた。当時、被告車の停止した地点から道路右方からの車両の走行状況の見通しを妨げるものはなく、原告が前方左側の路外に被告車が停止しているのを認め得たのと同様、被告においても、右方から原告車が進行してくるのを優に認め得る状況にあつた。

(四)  原告車は、右のように〈2〉信号地点の交差点を右折しようとしており、しかも同信号が赤色を表示していたことから、時速二〇キロメートル程度の速度で本件事故現場にさしかかり、別紙図面〈3〉地点付近まで至つたとき、右の〈4〉地点に停止していた被告車がいきなり発進し、しかも外側の第一通行帯を越えて、内側車線を走行していた原告車の前方に飛び出してきた。永島は、急制動をかけたが間に合わず、同図面×地点付近で、原告車の前部左フエンダー部分と被告車前部とが接触して被告車は転倒し、被告は原告車の進路直前の路上に投げ出された。

(五)  原告は、咄嗟にハンドルを右に切つて原告車が被告に衝突するのを回避したが、そのため、原告車は道路右側のガードレールに衝突し、損傷を受けた。

2  車両を運転し、道路外から道路に進入する場合には、道路を走行中の車両等の動静を注視して十分に安全を確認し、もつて他の車両等の走行を妨げたりすることのないようにすべき注意義務があることはいうまでもないところ、右認定の事実によれば、被告は、道路右方から原告車が進行してくるのを優に認め得る状況にあつたにもかかわらず、いきなり被告車を発進させ、内側車線を直進中の原告車の直前まで進入させたものであるから、右の注意義務を怠つたものというべきであり、かかる注意義務の懈怠が本件事故を引き起こしたものと認められる。したがつて、被告は、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を免れない。

三  同(三)(損害)について判断する。

1  原告車修理代金

弁論の全趣旨により成立を認める甲第一号証の一ないし四、第二号証、第四号証及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故による損傷のための原告車の修理代金としてその主張の三八万六〇四四円の出捐を余儀なくされたことが認められる。なお、右各証拠等によると、右損傷の修理の際、ついでにそれ以外の箇所についても修理が行われた結果、修理費用の総額は五三万三四三七円で、そのうちの三八万六〇四四円が本件事故による損傷箇所に係る分であり、その余の一四万七三九三円がそれ以外の箇所に係る分であることが認められる。

2  代車使用料

右甲第一号証の一ないし四、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証、第五号証、第六号証の一・二及び弁論の全趣旨によれば、原告車(フエアレデイZ〔型式・E―Z三二N〕)は平成三年八月一日から同月二八日までの二八日間本件事故による損傷等のため修理に出されていたこと、その間原告はこれを利用できなかつたため、他から代車としてセルシオを借り受け、使用料として六一万六〇〇〇円を支払つたことになつていること、弁論の全趣旨により成立を認める甲第六号証の一によれば、自動車レンタル業者におけるセルシオのレンタル料金は、六時間まで及び追加一日につき三万六〇〇〇円とされていること、そして、右甲第六号証の一、弁論の全趣旨により成立を認める甲第五号証、第六号証の二及び弁論の全趣旨によれば、自動車レンタル業者から一か月連続で自動車を借り受けた場合の料金は「追加一日分の料金」の二二日分であり、フエアレデイーZ(ただし、その仕様・型式は「ツインターボTバールーフ」であり、原告車の仕様・型式と同じものかどうかは明らかでない。)の「追加一日分の料金」は二万八〇〇〇円であること、したがつて、前記の六一万六〇〇〇円という金額は、自動車レンタル業者から右のフエアレデイーZを二八日間借り受けた場合と同じであること、以上の事実が認められる。

被告は、代車の期間及び使用料の相当性を争うので、これを検討するに、右認定のように代車期間二八日間というのは原告車の修理に要した期間であるところ、前記1のとおり、右の修理期間中には、本件事故による損傷箇所以外の箇所についても一四万七三九三円の費用を要する修理等がなされていることが認められ、右甲第一号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によると、右の修理等は後部バンパーの交換等であり、前記のようにそれに係る費用が修理費用総額五三万三四三七円のうちの三割近くを占めていることをも考えると、本件事故による損傷箇所以外の箇所の修理が原告車の右の修理期間に影響を及ぼしてないとはいえず、したがつて、右の期間をそのまま本件事故による損害としての代車使用料算定の基礎とするのは相当とはいえない。また、損害として是認し得る代車使用料は、事故に遭つた車両と同種・同程度のものの一般的なレンタル料金を限度とすべきものと解するのが相当であるから、原告が借りたというセルシオのレンタル料金を基準に考えることができないことはいうまでもないし、フエアレデイZについての前記認定のレンタル料金も、原告車は、同じフエアレデイZとはいつても、右レンタル料金に係るものと同一の仕様・型式のものであるか否かが明らかでないから、これをそのまま基準として採用するのも相当とはいえない。しかるところ、前掲甲第六号証の一によつて、自動車レンタル業者における各種自動車の「追加一日当たり」のレンタル料金をみると、原告車と同様のスポーテイタイプでは、例えば、インテグラXSiは一万四八〇〇円、スカイラインGTS―4、ボルボ四八〇ターボ及びソアラ二〇〇〇GTは一万七九〇〇円、ソアラ二五〇〇ツインターボは二万四〇〇〇円とされていることが認められる。

以上を総合勘案し、当裁判所は、本件事故と相当因果関係のある損害としての代車使用料は、一日当たり二万円とし、その二二日分の四四万円をもつて相当と認める

3  原告車の査定落ち価額(事故減価)

前掲甲第四号証によると、原告車の修理を行つた日産プリンス神奈川販売株式会社緑営業所の担当者は、「修理後の原告車を下取りする場合には、平成四年五月二二日現在において、査定落ち(事故減価)は二一万円となる」旨の意見を述べていることが認められる。いわゆる「評価損」をいうものと解される。被告がこれについて具体的反論をしていないことをも勘案し、右の二一万円をもつて本件事故による損害と認める。

4  弁護士費用

本件事案の性質と被告の対応等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、一〇万円をもつて相当と認める。

5  まとめ

以上によると、原告の損害は合計一一三万六〇四四円である。

四  抗弁(過失相殺)について

被告は、本件事故の発生については原告車を運転していた永島にも過失があつたと主張するが、成立に争いのない乙第一号証(被告の陳述書)によつてもこれを認めるに足りず、他に右の主張事実を認めさせるべき証拠は全くない。

本件事故は、二1で認定したように、原告車が国道二七一号線という幹線道路の第二通行帯を直進中、被告車が路外からいきなり原告車の進路直前に飛び出したことによるものというべきであるところ、原告車を運転していた永島としては、進路前方左側の路外に被告車が停止しているのを認めていたとはいえ、被告もまた原告車が進行してくるのを現認し、それに応じた行動をとるものと考えていたであろうことは当然のことであるから、永島において、被告車がいきなり自車の前に進入してくることまで予見し得べきであつたとはいえないし、被告車が飛び出した後における永島の対応に責められるべき点を認めることもできない。

被告の抗弁は到底採用の限りでない。

五  まとめ

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、一一三万六〇四四円及びこれに対する本件事故日である平成三年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度において理由があり、その余は失当である。

よつて、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

別紙 〈省略〉

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